正規分布の再生性の2通りの証明

最終更新日 2025/12/04

正規分布は「再生性(closure under convolution)」を持つ特別な分布です。
つまり、
・$X$ が平均 $\mu_1$、分散 $\sigma_1^2$ の正規分布に従い、
・$Y$ が平均 $\mu_2$、分散 $\sigma_2^2$ の正規分布に従い、
・$X$ と $Y$ が独立なとき、
$X+Y$ は平均 $\mu_1+\mu_2$、分散 $\sigma_1^2+\sigma_2^2$ の正規分布に従います。

正規分布が再生性(再生的性質)を持つという事実は、統計学・機械学習・信号処理など幅広い分野で頻出します。
特に、中心極限定理や線形モデルの誤差解析では「正規分布の和が正規分布になる」ことが本質的役割を果たします。

このページでは、正規分布が再生性をもつ理由を2つの代表的な方法で証明します。

1. モーメント母関数を使う証明(最短・最もスマート)
2. 畳み込み積分による証明(確率密度関数から直接導く方法)

どちらの証明も大学数学レベルで理解できるように丁寧に説明します。

正規分布の再生性の証明1:モーメント母関数(MGF)による方法

モーメント母関数が扱えるなら、この証明が最もシンプルです。

平均 $\mu_1$、分散 $\sigma_1^2$ の正規分布 $X$ のモーメント母関数は

\[
E[e^{tX}] = \exp\left(\mu_1 t + \frac{\sigma_1^2 t^2}{2}\right)
\]

となります(補足1)。

同様に、正規分布 $Y$ についても

\[
E[e^{tY}] = \exp\left(\mu_2 t + \frac{\sigma_2^2 t^2}{2}\right)
\]

よって独立性より、

\[
\begin{align}
E[e^{t(X+Y)}]
&= E[e^{tX}]\,E[e^{tY}] \\
&= \exp\left((\mu_1+\mu_2)t + \frac{\sigma_1^2+\sigma_2^2}{2} t^2\right)
\end{align}
\]

これはまさに平均 $\mu_1+\mu_2$、分散 $\sigma_1^2+\sigma_2^2$ の正規分布の MGFです。

したがって
$X+Y$ は新たな正規分布に従う(=正規分布は再生性を持つ)
ことが示されました。

証明1の補足:MGF の導出

補足1:モーメント母関数とは $E[e^{tX}]$ のことです。
ガウス積分を用いると以下の式が導けます。

\[
E[e^{tX}] =
\int_{-\infty}^{\infty}
e^{tx}
\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_1}
\exp\left\{-\frac{(x-\mu_1)^2}{2\sigma_1^2}\right\} dx
= \exp\left(\mu_1 t + \frac{\sigma_1^2 t^2}{2}\right)
\]

参考:
ガウス積分まわりの公式リスト

正規分布の再生性の証明2:確率密度関数の畳み込みによる方法

正規分布の和を「密度関数の畳み込み」から直接導く、より解析的な証明です。

$X, Y$ の確率密度関数は

\[
f_X(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_1}
\exp\left\{-\frac{(x-\mu_1)^2}{2\sigma_1^2}\right\},
\quad
f_Y(y)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_2}
\exp\left\{-\frac{(y-\mu_2)^2}{2\sigma_2^2}\right\}
\]

和 $Z=X+Y$ の密度は畳み込み:

\[
f_{X+Y}(z)=\int_{-\infty}^{\infty} f_X(t) f_Y(z-t)\, dt
\]

定数 $C$ をまとめると

\[
C\int_{-\infty}^{\infty}
\exp\left\{
-\frac{(t-\mu_1)^2}{2\sigma_1^2}
-\frac{(z-t-\mu_2)^2}{2\sigma_2^2}
\right\}\,dt
\]

ここで指数の中身は $t,z$ に関する二次式です。
これを平方完成して整理すると(補足2)、

\[
f_{X+Y}(z)=C” \exp\left\{(az+b)^2\right\}
\]

という形になります。

指数の肩が二次関数である確率密度関数は必ず正規分布です(補足3)。

よって、畳み込みからも
$X+Y$ は正規分布に従う
ことが分かります。

平均と分散は、

\[
E[X+Y]=\mu_1+\mu_2,\quad
\mathrm{Var}(X+Y)=\sigma_1^2+\sigma_2^2
\]

となります(独立性を使用)。

証明2の理解に必要な知識

補足1:和の分布は畳み込みで計算できます。
詳細は
確率変数の和の分布とポアソン分布での例

平方完成のテクニックを使うと計算量が大きく削減できます。

補足2:$t$ と $z$ の二次式は平方完成により
\[
(pt+qz+r)^2 + (az+b)^2 + k
\]
の形にできます。

(気になる方は実際に係数 $a,b,p,q,r,k$ を計算してみてください。)

補足3:指数の肩が二次関数の密度関数は正規分布です。
平方完成により
\[
C\exp\left\{-\frac{(z-\mu)^2}{2\sigma^2}\right\}
\]
の形に変形できます。

関連:このあと学ぶべき内容

多変量正規分布の条件付き分布は、再生性の発展形として理解できます。
次回は以下の記事で詳しく解説します:

多変量正規分布における条件付き確率の式と意味

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