全微分の意味を大雑把に分かりやすく解説

最終更新日 2019/03/31

1変数関数の微分について復習したあと、微分の多変数関数バージョンである「偏微分」「全微分」について解説します。

1変数関数の微分

1変数関数の微分には2つの意味があります。意味1を一般化したのが偏微分
意味2を一般化したのが全微分
とみなせます。

微分の意味1
「$x$ がちょっとだけ増えたときに、$f(x)$ の値がどれくらい増えるか」を表す量(の極限)が微分です:
$\dfrac{df(x)}{dx}=\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}$

微分の意味2
接線の傾き(つまり、関数を1次関数で近似したときの傾き)が微分です。すなわち、
$f(x_0+h)=f(x_0)+ah+o(h)$
を満たす $a$ が $f(x)$ の $x=x_0$ における微分係数です。ただし、$o(h)$ は微小量($\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{o(h)}{h}=0$ を満たす関数)です。

偏微分の例と定義

偏微分とは、1つの変数以外を定数だとみなしたときの微分です。

例えば、3変数関数 $f(x,y,z)=x^2+y^3+yz$ について
・$x$ について偏微分する($y,z$ は定数だとみなす)と $2x$
・$y$ について偏微分すると $3y^2+z$
・$z$ について偏微分すると $y$
となります。

偏微分は、微分の意味1の多変数版とみなせます。つまり、微分の定義式
$\dfrac{df(x)}{dx}=\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}$
における $f(x)$ を多変数にして、1変数以外を定数だとみなしたのが偏微分です。例えば、$f(x,y,z)$ の $x$ についての偏微分は
$\dfrac{\partial f}{\partial x}=\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h,y,z)-f(x,y,z)}{h}$
のように定義されます。(この極限が存在するとき、$f$ は $x$ について偏微分可能、と言います)

$\dfrac{\partial f}{\partial x}$ は $f$ を $x$ で偏微分したもの(偏導関数)を表す記号です。

全微分の例と定義

全微分とは、関数を1次関数で近似したときの近似式です。

例えば、3変数関数 $f(x,y,z)=x^2+y^3+yz$ を $(x_0,y_0,z_0)$ の近くで一次近似すると、
$f(x,y,z)\\
\fallingdotseq f(x_0,y_0,z_0)+2x_0(x-x_0)\\
+(3y_0^2+z_0)(y-y_0)+y_0(z-z_0)$
となります。
(なぜ上式のようになるのか、計算は後ほど「全微分と偏微分の関係」で述べます)

$x-x_0=\Delta x$ などと置いて上式を移項すると、
$f(x_0+\Delta x,y_0+\Delta y,z_0+\Delta z)-f(x_0,y_0,z_0)\\
\fallingdotseq 2x_0\Delta x+(3y_0^2+z_0)\Delta y+y_0\Delta z$
となります。

上の一次近似式を以下のように表記することがあります:
$df=2x_0dx+(3y_0^2+z_0)dy+y_0dz$
この式のことを $f$ の $(x_0,y_0,z_0)$ における全微分と言います。

全微分は、微分の意味2の多変数版とみなせます。つまり、一次近似の式:
$f(x_0+h)=f(x_0)+ah+o(h)$
を多変数版にした:
$f(x_0+h,y_0+k)\\
=f(x_0,y_0)+ah+bk+o(\sqrt{h^2+k^2})$
という式が成立する時、
$df=adx+bdy$
のように表記し、この式のことを全微分と言います。

ただし、$o(\sqrt{h^2+k^2})$ は微小量です。つまり $\displaystyle\lim_{(h,k)\to (0,0)}\dfrac{o(\sqrt{h^2+k^2})}{\sqrt{h^2+k^2}}=0$ を満たす関数です。
※$(h,k)$ をどのように $(0,0)$ に近づけても $0$ に収束するという意味です。

全微分と偏微分の関係

(ある点で)全微分可能なら(その点で各変数について)偏微分可能です。

二変数関数の場合に確認してみます。全微分可能な場合、
$f(x_0+h,y_0+k)\\
=f(x_0,y_0)+ah+bk+o(\sqrt{h^2+k^2})$
という式が成立しますが、このとき $x$ についての偏微分は
$\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x_0+h,y_0)-f(x_0,y_0)}{h}=a$
となります(極限値が存在します)。同様に、$y$ についての偏微分は $b$ となります。

つまり、全微分と偏微分の間には、
$a=\dfrac{\partial f}{\partial x}$、$b=\dfrac{\partial f}{\partial y}$
という関係式が成立します。言い換えると、全微分(一次近似式)に登場する一次の各係数は偏微分になります。よって、全微分可能な場合、
$df=\dfrac{\partial f}{\partial x}dx+\dfrac{\partial f}{\partial y}dy$
などと書くことができます。

そのため、全微分可能であることが分かっている場合、偏微分を使って全微分を計算することができます。例えば「$f(x,y,z)=x^2+y^3+yz$ の全微分を計算したい」場合には、各変数の偏微分 $2x,3y^2+z,y$ を係数に並べて
$df=2xdx+(3y^2+z)dy+ydz$
とすればOKです。

逆に(ある点で各変数について)偏微分可能でも、全微分可能とは限りません。

次回は 汎関数とガトー微分の意味をかみくだいて解説 を解説します。

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