$\nabla$ は $\left(\dfrac{\partial}{\partial x},\dfrac{\partial}{\partial y},\dfrac{\partial}{\partial z}\right)$ というベクトルのようなものと覚えると、ベクトル解析の公式が分かりやすくなります。
∇の使い方1:勾配
関数 $f(x,y,z)$ に対して、各変数での微分を並べたベクトルのことを $\nabla f$ と書きます:
$\nabla f=\left(\dfrac{\partial f}{\partial x},\dfrac{\partial f}{\partial y},\dfrac{\partial f}{\partial z}\right)$
$\nabla$ に対応するベクトル $\left(\dfrac{\partial}{\partial x},\dfrac{\partial}{\partial y},\dfrac{\partial}{\partial z}\right)$ とスカラー $f$ の積っぽいので $\nabla f$ と表記する、と考えると分かりやすいです。
$\nabla f$ は勾配ベクトルと呼ばれ、$\mathrm{grad}\:f$ と書かれることもあります。
∇の使い方2:発散
$x,y,z$ の3変数関数 $V_x,V_y,V_z$ の3つ組 $V=(V_x,V_y,V_z)$ に対して、対応する変数での微分を足し上げたスカラーのことを $\nabla\cdot V$ と書きます:
$\nabla\cdot V=\dfrac{\partial V_x}{\partial x}+\dfrac{\partial V_y}{\partial y}+\dfrac{\partial V_z}{\partial z}$
$\nabla$ に対応するベクトル $\left(\dfrac{\partial}{\partial x},\dfrac{\partial}{\partial y},\dfrac{\partial}{\partial z}\right)$ とベクトル $V=(V_x,V_y,V_z)$ の内積っぽいので $\nabla \cdot V$ と表記する、と考えると分かりやすいです。
$\nabla\cdot V$ は発散と呼ばれ、$\mathrm{div}\:V$ と書かれることもあります。
∇の使い方3:回転
$x,y,z$ の3変数関数 $V_x,V_y,V_z$ の3つ組 $V=(V_x,V_y,V_z)$ に対して、以下のようなベクトルで $\nabla\times V$ を定義します:
$\nabla\times V\\
=\left(\dfrac{\partial V_z}{\partial y}-\dfrac{\partial V_y}{\partial z},\dfrac{\partial V_x}{\partial z}-\dfrac{\partial V_z}{\partial x},\dfrac{\partial V_y}{\partial x}-\dfrac{\partial V_x}{\partial y}\right)$
$\nabla$ に対応するベクトル $\left(\dfrac{\partial}{\partial x},\dfrac{\partial}{\partial y},\dfrac{\partial}{\partial z}\right)$ とベクトル $V=(V_x,V_y,V_z)$ の外積っぽいので $\nabla \times V$ と表記する、と考えると分かりやすいです。
$\nabla\times V$ は回転と呼ばれ、$\mathrm{rot}\:V$ と書かれることもあります。
∇の使い方4:ラプラシアン
関数 $f(x,y,z)$ に対して、各変数での2階微分の和のことを $\nabla^2 f$ と書きます:
$\nabla^2 f=\dfrac{\partial^2f}{\partial x^2}+\dfrac{\partial^2f}{\partial y^2}+\dfrac{\partial^2f}{\partial z^2}$
$\nabla$ に対応するベクトル $\left(\dfrac{\partial}{\partial x},\dfrac{\partial}{\partial y},\dfrac{\partial}{\partial z}\right)$ の(長さの)2乗 $\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}+\dfrac{\partial^2}{\partial y^2}+\dfrac{\partial^2}{\partial z^2}$ に $f$ をかけたものっぽいので $\nabla^2 f$ と表記する、と考えると分かりやすいです。
なお、ラプラシアンは「勾配の発散」で定義することもできます:
$\nabla^2f=\nabla\cdot(\nabla f)$
スカラー三重積
という公式が成立します。
$\mathrm{div}\:(\mathrm{rot}\:V)=0$ と書くこともできます。
公式の証明は簡単です。
$\nabla\times V\\
=\left(\dfrac{\partial V_z}{\partial y}-\dfrac{\partial V_y}{\partial z},\dfrac{\partial V_x}{\partial z}-\dfrac{\partial V_z}{\partial x},\dfrac{\partial V_y}{\partial x}-\dfrac{\partial V_x}{\partial y}\right)$
という回転の定義式に対して発散を計算すると $0$ になることが確認できます。
この公式は、一般的なベクトルについての
$\overrightarrow{a}\cdot(\overrightarrow{a}\times\overrightarrow{b})=0$
という公式(スカラー三重積の特殊ケース)を知っていると非常に覚えやすいです。
ベクトル三重積
という公式が成立します。
この公式も、成分計算で証明することができます。
この公式は、一般的なベクトルについての
$\overrightarrow{a}\times(\overrightarrow{a}\times\overrightarrow{b})=(\overrightarrow{a}\cdot \overrightarrow{b})\overrightarrow{a}-(\overrightarrow{a}\cdot \overrightarrow{a})\overrightarrow{b}$
という公式(ベクトル三重積の特殊ケース)を知っていると非常に覚えやすいです。
次回は 全微分の意味を大雑把に分かりやすく解説 を解説します。