分子の有理化とは、$\dfrac{\sqrt{2}}{3}=\dfrac{2}{3\sqrt{2}}$ のように、分子が無理数であるときに、変形することで分子を有理数にするような操作のことです。
このページでは、
・分子の有理化はどうやるのか?
・分子の有理化はいつ役に立つのか?
といった疑問にお答えします。
分子の有理化のやり方
例えば、$\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{3}}{3}$ の分子を有理化してみます。分母と分子に $\sqrt{5}+\sqrt{3}$ をかけると、
$\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{3}}{3}\\
=\dfrac{(\sqrt{5}-\sqrt{3})(\sqrt{5}+\sqrt{3})}{3(\sqrt{5}+\sqrt{3})}\\
=\dfrac{5-3}{3(\sqrt{5}+\sqrt{3})}\\
=\dfrac{2}{3(\sqrt{5}+\sqrt{3})}$
となり、分母は汚いですが、分子は整数になりました。
普通は、答えをきれいな形にするために、分子ではなく分母を有理化することが多いです。しかし、数学3で極限の計算をするときには、分子の有理化が役立つ場合があります。
分子の有理化が役立つ例
という極限値を計算してみましょう。
$n\to\infty$ のとき、$\sqrt{n+1}$ も $\sqrt{n}$ もいくらでも大きくなるので、この式は $\infty-\infty$ の不定形です。
そこで、この式を $\dfrac{\sqrt{n+1}-\sqrt{n}}{1}$ と見て、分母分子に $\sqrt{n+1}+\sqrt{n}$ をかけることで分子を有理化します:
$\dfrac{(\sqrt{n+1}-\sqrt{n})(\sqrt{n+1}+\sqrt{n})}{\sqrt{n+1}+\sqrt{n}}\\
=\dfrac{1}{\sqrt{n+1}+\sqrt{n}}$
この式の分母は $n\to\infty$ で無限大に発散するので、結局
$\displaystyle\lim_{n\to\infty}(\sqrt{n+1}-\sqrt{n})=0$
が分かります。
三乗根を有理化する例(難問)
$\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{\sqrt[3]{8+h}-2}{h}$
という極限値を計算してみましょう。
$(a-b)(a^2+ab+b^2)=a^3-b^3$ という展開公式を使って分子を有理化します($a=\sqrt[3]{8+h}$、$b=2$ として使う)。
分母分子に $(\sqrt[3]{8+h})^2+2\sqrt[3]{8+h}+4)$ をかけると、分子は $(8+h)-8=h$ となります。よって、
$h\to 0$ のとき、
$\dfrac{\sqrt[3]{8+h}-2}{h}\\
=\dfrac{1}{(\sqrt[3]{8+h})^2+2\sqrt[3]{8+h}+4}\\
\to \dfrac{1}{2^2+2\cdot 2+4}$
$=\dfrac{1}{12}$
となります。
ちなみに、これを一般化すると三乗根の微分公式が導けます。
「分母」の有理化と「分子」の有理化
分母の有理化:
答えをきれいな形にするための操作です。有理化できるのにしない状態を答えとすると、減点されることがあるので絶対にするべきです。
分子の有理化:
極限を計算するための式変形の手法の一つです。上記の例題のように、そのままでは極限の値を計算できないときでも、分子を有理化することで極限が計算できることがあります。極限の問題で困ったらやってみるとよいでしょう。
次回は 無限級数(無限和)の公式集 を解説します。