分子の有理化と極限の問題

最終更新日 2019/05/12

分子の有理化とは、$\dfrac{\sqrt{2}}{3}=\dfrac{2}{3\sqrt{2}}$ のように、分子が無理数であるときに、変形することで分子を有理数にするような操作のことです。

このページでは、
・分子の有理化はどうやるのか?
・分子の有理化はいつ役に立つのか?

といった疑問にお答えします。

分子の有理化のやり方

$\dfrac{\sqrt{A}-\sqrt{B}}{C}$ という分数は、分母と分子に $\sqrt{A}+\sqrt{B}$ をかけることで、分子を有理化することができます。

例えば、$\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{3}}{3}$ の分子を有理化してみます。分母と分子に $\sqrt{5}+\sqrt{3}$ をかけると、

$\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{3}}{3}\\
=\dfrac{(\sqrt{5}-\sqrt{3})(\sqrt{5}+\sqrt{3})}{3(\sqrt{5}+\sqrt{3})}\\
=\dfrac{5-3}{3(\sqrt{5}+\sqrt{3})}\\
=\dfrac{2}{3(\sqrt{5}+\sqrt{3})}$

となり、分母は汚いですが、分子は整数になりました。

普通は、答えをきれいな形にするために、分子ではなく分母を有理化することが多いです。しかし、数学3で極限の計算をするときには、分子の有理化が役立つ場合があります。

分子の有理化が役立つ例

$\displaystyle\lim_{n\to\infty}(\sqrt{n+1}-\sqrt{n})$
という極限値を計算してみましょう。

$n\to\infty$ のとき、$\sqrt{n+1}$ も $\sqrt{n}$ もいくらでも大きくなるので、この式は $\infty-\infty$ の不定形です。

そこで、この式を $\dfrac{\sqrt{n+1}-\sqrt{n}}{1}$ と見て、分母分子に $\sqrt{n+1}+\sqrt{n}$ をかけることで分子を有理化します:

$\dfrac{(\sqrt{n+1}-\sqrt{n})(\sqrt{n+1}+\sqrt{n})}{\sqrt{n+1}+\sqrt{n}}\\
=\dfrac{1}{\sqrt{n+1}+\sqrt{n}}$

この式の分母は $n\to\infty$ で無限大に発散するので、結局
$\displaystyle\lim_{n\to\infty}(\sqrt{n+1}-\sqrt{n})=0$
が分かります。

三乗根を有理化する例(難問)

次は、さらに難しい問題です。
$\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{\sqrt[3]{8+h}-2}{h}$
という極限値を計算してみましょう。

$(a-b)(a^2+ab+b^2)=a^3-b^3$ という展開公式を使って分子を有理化します($a=\sqrt[3]{8+h}$、$b=2$ として使う)。

分母分子に $(\sqrt[3]{8+h})^2+2\sqrt[3]{8+h}+4)$ をかけると、分子は $(8+h)-8=h$ となります。よって、
$h\to 0$ のとき、
$\dfrac{\sqrt[3]{8+h}-2}{h}\\
=\dfrac{1}{(\sqrt[3]{8+h})^2+2\sqrt[3]{8+h}+4}\\
\to \dfrac{1}{2^2+2\cdot 2+4}$
$=\dfrac{1}{12}$
となります。

ちなみに、これを一般化すると三乗根の微分公式が導けます

「分母」の有理化と「分子」の有理化

分母の有理化分子の有理化の主な役割の違いを見てみましょう。

分母の有理化:
答えをきれいな形にするための操作です。有理化できるのにしない状態を答えとすると、減点されることがあるので絶対にするべきです。

分子の有理化:
極限を計算するための式変形の手法の一つです。上記の例題のように、そのままでは極限の値を計算できないときでも、分子を有理化することで極限が計算できることがあります。極限の問題で困ったらやってみるとよいでしょう。

次回は 無限級数(無限和)の公式集 を解説します。

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