部分空間の定義と、部分空間であることの証明

最終更新日 2019/05/12

部分空間 $W$ とは、
ベクトル空間 $V$ の部分集合であって
ベクトル空間(和とスカラー倍をした結果も $W$ の要素になる)である
もののことを言います。

このページでは、部分空間の意味と具体例について解説します。

部分空間の例

「$x$ 軸」は「座標平面全体」の部分空間です。

実際
・$x$ 軸は座標平面全体の部分集合
・$x$ 軸全体はベクトル空間(和やスカラー倍をしてもはみ出ない)
です。

少し大雑把な表現ですが、部分空間の分かりやすい例です。

部分空間でない例

一方「$x$ 軸の正の部分」は「座標平面全体」の部分空間ではありません。

実際、「$x$ 軸の正の部分」に属する $(1,0)$ を $-1$ 倍した $(-1,0)$ は「$x$ 軸の正の部分」に属しません。

つまり「$x$ 軸の正の部分」はスカラー倍をするとはみ出る(スカラー倍に関して閉じていない)ので、ベクトル空間ではありません。したがって部分空間とも言いません。

部分空間のきちんとした定義

あるベクトル空間 $V$ の部分集合 $W$ が、
条件0.空集合でない
条件1.$x\in W$ なら、$\alpha x\in W$
条件2.$x_1,x_2\in W$ なら、$x_1+x_2\in W$

を満たすとき、$W$ を $V$ の部分空間と言う。

条件1は「スカラー倍に関して閉じている」
条件2は「和に関して閉じている」
と言うことがあります。

定義の補足

・「部分空間」のことを「線形部分空間」「部分ベクトル空間」などと呼ぶこともあります。

・条件0と、条件1で $\alpha=0$ とすることで、$\overrightarrow{0}$(ゼロベクトル)は、必ず部分空間 $W$ の要素になることが分かります。

・条件1は、厳密には、
($V$ を $K$ 上のベクトル空間として)$x\in W$ なら、任意の $\alpha\in K$ に対して、$\alpha x\in W$
という意味です。

共通部分は部分空間

$W_1$、$W_2$ が $V$ の部分空間であるとき、その共通部分 $W=W_1\cap W_2$ も部分空間になります。

これを証明してみましょう。

条件0の確認
$W_1$ と $W_2$ は $V$ の部分空間なので、定義の補足で述べたことから、$\overrightarrow{0}\in W_1$ かつ $\overrightarrow{0}\in W_2$ です。よって、 $\overrightarrow{0}\in W$ なので、$W$ は空集合ではありません。

条件1の確認
$x\in W=W_1\cap W_2$ のとき、
$x\in W_1$ かつ $x\in W_2$ です。
$W_1$ と $W_2$ は $V$ の部分空間なので、条件1より
$\alpha x\in W_1$ かつ $\alpha x\in W_2$ となります。
つまり、$\alpha x\in W_1\cap W_2=W$ が成立します。

条件2の確認
$x_1,x_2\in W=W_1\cap W_2$ のとき、
$x_1\in W_1$ かつ $x_2\in W_1$ です。
$W_1$ は $V$ の部分空間なので、条件2より
$x_1+x_2\in W_1$ です。
同様に、$x_1+x_2\in W_2$ も分かります。
つまり、$x_1+x_2\in W_1\cap W_2=W$ が成立します。

和空間は部分空間

$W_1$、$W_2$ が $V$ の部分空間であるとき、その和空間 $W=W_1+W_2$ も部分空間になります。

ちなみに、$W_1$ と $W_2$ の和空間とは「$W_1$ に属するベクトルと、$W_2$ に属するベクトルの和で表せるベクトル全体の集合」です。

和空間が部分空間であることを証明してみましょう。

条件0の確認
$W_1$ と $W_2$ は $V$ の部分空間なので、定義の補足で述べたように、$\overrightarrow{0}\in W_1$ かつ $\overrightarrow{0}\in W_2$ です。よって、 $\overrightarrow{0}=\overrightarrow{0}+\overrightarrow{0}\in W_1+W_2=W$ なので、$W$ は空集合ではありません。

条件1の確認
$x\in W=W_1+W_2$ のとき、
あるベクトル $y_1\in W_1,y_2\in W_2$ が存在して、$x=y_1+y_2$ と書けます。
$W_1$ と $W_2$ は $V$ の部分空間なので、条件1より
$\alpha y_1 \in W_1$ かつ $\alpha y_2\in W_2$ となります。
つまり、
$\alpha(y_1+y_2)\\
=\alpha y_1 +\alpha y_2\\
\in W_1+W_2=W$
が成立します。

条件2の確認
$x_1,x_2\in W=W_1+W_2$ のとき、
あるベクトル $y_1\in W_1,y_2\in W_2$ が存在して、$x_1=y_1+y_2$ と書けます。
また、あるベクトル $z_1\in W_1,z_2\in W_2$ が存在して、$x_2=z_1+z_2$ と書けます。

このとき、
$x_1+x_2\\
=(y_1+y_2)+(z_1+z_2)\\
=(y_1+z_1)+(y_2+z_2)$
となりますが、$W_1$ と $W_2$ が部分空間であることと条件2より、
$y_1+z_1\in W_1$、$y_2+z_2\in W_2$
であるので、結局
$x_1+x_2\in W_1+W_2=W$
となります。

次回は 一次結合(線形結合)の意味と様々な例 を解説します。

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