$\dfrac{d\overrightarrow{a}}{dt}$:ベクトルの微分。結果はベクトル。
$\dfrac{df}{d\overrightarrow{x}}$:スカラーをベクトルで微分。結果はベクトル。
$\dfrac{d\overrightarrow{f}}{d\overrightarrow{x}}$:ベクトルをベクトルで微分。結果は行列。
ベクトルの微分
各成分が $t$ に依存するようなベクトル $a(t)$ を $t$ で微分したものは、
$\displaystyle\lim_{\Delta t\to 0}\dfrac{\overrightarrow{a}(t+\Delta t)-\overrightarrow{a}(t)}{\Delta t}$
で定義されます。分子はベクトルで、分母はスカラーなので、$\lim$ の中身はベクトルの定数倍、つまりベクトルです。
ベクトルの微分は各成分ごとに微分すればOKです。例えば、
$a(t)=(t,t^2,t^3)$ のとき、
$\dfrac{d\overrightarrow{a}}{dt}=(1,2t,3t^2)$
となります。
ベクトルの微分の公式
内積の微分
$\dfrac{d(\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b})}{dt}=\dfrac{d\overrightarrow{a}}{dt}\cdot\overrightarrow{b}+\overrightarrow{a}\cdot\dfrac{d\overrightarrow{b}}{dt}$
外積の微分
$\dfrac{d(\overrightarrow{a}\times\overrightarrow{b})}{dt}=\dfrac{d\overrightarrow{a}}{dt}\times\overrightarrow{b}+\overrightarrow{a}\times\dfrac{d\overrightarrow{b}}{dt}$
ベクトルの微分は大学の物理、特に力学で習う人が多いでしょう。
ベクトルで微分
多変数関数 $f(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ に対して、各変数による偏微分を並べたベクトルを勾配ベクトルと言います。
例えば、$f(x_1,x_2,x_3)=x_1+x_2^2+x_3^3$ のとき、
勾配ベクトルは $(1,2x_2,3x_3^2)$
となります。
この勾配ベクトルのことを、$\dfrac{df}{d\overrightarrow{x}}$ と書くことがあります。ただし、
$\overrightarrow{x}=(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ は変数を並べたものと考えます。
$\overrightarrow{x}$ や $\dfrac{df}{d\overrightarrow{x}}$ が縦ベクトルを表すのか、横ベクトルを表すのかは状況によりますので、定義を確認してください。
ベクトルをベクトルで微分
1と2を組合せてみましょう。各成分が多変数関数であるようなベクトル $\overrightarrow{f}$ について考えます。
$\overrightarrow{f}$ の第1成分を $f_1(x_1,x_2,\cdots,x_n)$
$\overrightarrow{f}$ の第2成分を $f_2(x_1,x_2,\cdots,x_n)$
$\vdots$
$\overrightarrow{f}$ の第$m$成分を $f_m(x_1,x_2,\cdots,x_n)$
としましょう。
このとき、
$ij$ 成分が
$\overrightarrow{f}$ の第 $i$ 成分を $x_j$ で偏微分したもの
である行列を考え、
これを $\dfrac{d\overrightarrow{f}}{d\overrightarrow{x}}$ と表記すると便利なことがあります。(縦と横を逆にして定義することもあるので、ご注意ください)
例えば、
$f_1=x_1+2x_2+3x_3$
$f_2=4x_1+5x_2+6x_3$
$f_3=7x_1+8x_2+9x_3$
のとき、上の定義に従うと、
$\dfrac{d\overrightarrow{f}}{d\overrightarrow{x}}=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix}$
となります。
次回は 部分空間の定義と、部分空間であることの証明 を解説します。