テンソルの大雑把な意味と正確な定義

最終更新日 2019/04/18

テンソルの大雑把な意味と正確な定義を紹介します。テンソルと多次元配列の違いについても解説します。

テンソルの大雑把な意味

単なる多次元配列のことをテンソルと呼ぶことがあります。

0次元配列(1つの数字)のことをスカラー、
1次元配列 $(a_1,\dots,a_n)$ のことをベクトル、
2次元配列
$\begin{pmatrix}a_{11}&\dots&a_{1n}\\\vdots&&\vdots\\a_{m1}&\dots&a_{mn}\end{pmatrix}$
のことを行列、
と言うことがあります。

これらを一般化した $N$ 次元配列のことを、$N$ 階のテンソルと呼ぶことがあります。

tensorflow などの深層学習のフレームワークを使う際には、多次元配列を扱うことが多く、この多次元配列をテンソルと呼ぶことがあります。ただし、正確には「テンソル」と「多次元配列」は異なるものです。

テンソルと多次元配列の違い

多次元配列は、単純に数字をたくさん(立方体の各マスに)並べたものです。

一方、テンソルは正確に定義するのがけっこう大変な「数学的なオブジェクト」です。大雑把には、テンソルとは「基底を定めれば多次元配列が定まり、その多次元配列の成分は基底の変換規則に従う」ような関数と言えます。

テンソルの正確な定義

テンソルの定義は(同値なものが)いくつかありますが、ここでは「成分の変換規則」による定義を紹介します。

テンソルの定義:
p階反変q階共変テンソルとは、

$n$ 次元のベクトル空間の各基底 $e=(e_1,\dots, e_n)$ に対して,$(p+q)$ 次元の配列 $T_{j_1,\dots,j_q}^{i_1,\dots,i_p}(e)$ を対応させる関数であって,

基底を $e$ から $eR$ に取り替えたときに、多次元配列の成分が
$T_{j’_1,\dots,j’_q}^{i’_1,\dots,i’_p}(eR)\\
=\displaystyle\sum_{i_1,\dots,i_p,j_1,\dots,j_q}(R^{-1})_{i_1}^{i’_1}\dots(R^{-1})_{i_p}^{i’_p}T_{j_1,\dots,j_q}^{i_1,\dots,i_p}(e)R_{j’_1}^{j_1}\dots R_{j’_q}^{j_q}$

のように変換されるようなものです。

これだけでは分かりにくいので、
1階反変テンソル、
1階反変1階共変テンソル
の具体例を見てみましょう。

例1.「普通の」ベクトル

例えば、平面上の普通のベクトル(高校数学で習う向きと大きさを持った物)は1階反変テンソルです。

このベクトル $\overrightarrow{v}$ は、基底 $e=(\overrightarrow{e_1},\overrightarrow{e_2})$ を定めれば、2つの実数 $(T^1,T^2)$ で表現できます:
$\overrightarrow{v}=T^1\overrightarrow{e_1}+T^2\overrightarrow{e_2}\\
=(\overrightarrow{e_1},\overrightarrow{e_2})\begin{pmatrix}T^1\\T^2\end{pmatrix}$

そして、基底を
$(\overrightarrow{e’_1},\overrightarrow{e’_2})=(\overrightarrow{e_1},\overrightarrow{e_2})R$
のように変換すると、
$\overrightarrow{v}=(\overrightarrow{e’_1},\overrightarrow{e’_2})R^{-1}\begin{pmatrix}T^1\\T^2\end{pmatrix}$
となるので、新しい基底での成分は
$R^{-1}\begin{pmatrix}T^1\\T^2\end{pmatrix}$
となります。

つまり、平面上の「普通の」ベクトルは以下の2つを満たすので、1階反変テンソルと言えます。
・基底を決めると1次元配列(成分を並べたもの)が決まる
・$p=1,q=0$ の場合の成分の変換規則:
$T^{i’_1}(eR)=\displaystyle\sum_{i_1}(R^{-1})_{i_1}^{i’_1}T^{i_1}(e)$
を満たす

例2. 線形写像

線形写像は1階反変1階共変テンソルです。

線形写像は、基底を決めると表現行列 $A$ が定まります。

そして、基底を変換する(基底の変換行列を $R$ とする)と、新しい基底での表現行列は $R^{-1}AR$ となります。詳しくは 相似変換の意味、表現行列や基底の変換行列との関係を整理 に記載しています。

よって、線形写像は以下の2つを満たすので、1階反変1階共変テンソルと言えます。
・基底を決めると2次元配列(表現行列)が決まる
・$p=q=1$ の場合の成分の変換規則を満たす

ページ上部へ戻る