線形性について述べた上で、双線形性、多重線形性の定義と例を解説します。
そもそも線形性とは
写像(1変数関数)$f$ が、以下の2つの性質を満たすとき、
・$f$ には線形性がある
・$f$ は線形である
・$f$ は線形写像である
などと言います。
性質1:
任意の $x,y$ に対して
$f(x+y)=f(x)+f(y)$
性質2:
任意の $a,x$ に対して
$f(ax)=af(x)$
微分、積分、期待値など、多くの重要な写像は線形性を持っています。
双線形性とは
写像(2変数関数)$f$ に対して、それぞれの入力に関して線形性が成り立つ時、
・$f$ には双線形性がある
・$f$ は双線形写像である
などと言います。
それぞれの入力に関して線形性が成り立つの定義をもう少しきちんと述べると、
1つめの入力について線形性が成立:
$f(x_1+x_2,y)=f(x_1,y)+f(x_2,y)$
$f(ax,y)=af(x,y)$
2つめの入力について線形性が成立:
$f(x,y_1+y_2)=f(x,y_1)+f(x,y_2)$
$f(x,ay)=af(x,y)$
という「4つの式が成立すること」になります。(任意の $x_1,x_2,y$ に対して、などの文言は省略しました。)
双線形性の例
つまり $f$ を2つの入力ベクトルの内積を計算する写像
$f(x,y)=x\cdot y$
とすると、$f$ は双線型写像になります。
つまり、サイズが適切な正方行列 $A$ を使って、
$f(x,y)=x^{\top}Ay$
という写像を考えると、$f$ は双線型写像になります。
このように、出力がスカラーである双線型写像のことを、双線形型式ということもあります。
多重線形性とは
写像($n$ 変数関数)$f(x_1,x_2,\dots,x_n)$ に対して、それぞれの入力に関して線形性が成り立つ時、
・$f$ には多重線形性がある
・$f$ は多重線形写像である
などと言います。
それぞれの入力に関して線形性が成り立つの定義をもう少しきちんと述べると、
1つめの入力について線形性が成立:
$f(x_1+y_1,x_2,\dots,x_n)=f(x_1,x_2\dots,x_n)+f(y_1,x_2,\dots,x_n)$
$f(ax_1,x_2,\dots,x_n)=af(x_1,x_2,\dots,x_n)$
2つめの入力について線形性が成立:
(同様なので以下省略)
$\vdots$
という「$2n$ 個の式が成立すること」になります。(任意の $x_1,\dots,x_n$ に対して、などの文言は省略しました。)
ちなみに、多重線形性の定義において、$n=1$ とすると普通の線形性の定義になり、$n=2$ とすると双線形性の定義になります。
多重線形性の例
つまり、$n$ 個の $n$ 次元ベクトル $x_1,\dots,x_n$ を入力とし、その $n$ 次元ベクトルを並べた行列の行列式を返す関数を $f$ とすると、$f$ は多重線形性を持ちます。
これは、行列式の性質と見ることもできますし、多重線形性を使って行列式を定義することもできます。
次回は テンソルの大雑把な意味と正確な定義 を解説します。