誤差伝播の公式:$e_z=\sqrt{\left(\dfrac{\partial f}{\partial x}\right)^2e_x^2+\left(\dfrac{\partial f}{\partial y}\right)^2e_y^2}$
について解説します。
準備:誤差について
真の値が $x_0$ であるものを測定しても、実際は測定誤差のせいで、$x_0+\Delta x$ のように、$x_0$ からは少しズレます。測定のたびに誤差 $\Delta x$ は異なりますが、$\Delta x$ の平均は $0$ であると仮定しましょう。
このとき、$\Delta x$ の標準偏差 $\sqrt{E[(\Delta x)^2]}$
(つまり、何回も測定したときの誤差の二乗平均のルート)
を $e_x$ と書くことにします。
そして、真の値が $x_0$ で、誤差の標準偏差が $e_x$ であるという状況を、
$x=x_0\pm e_x$
のように書くことにします。
例
例えば、横の長さが $10\:\mathrm{cm}$ である長方形の横の長さを測る状況を考えましょう。
測定誤差の標準偏差はだいたい $0.3\:\mathrm{cm}$ だとします:
$x=(10\pm 0.3)\:\mathrm{cm}$
同様に、縦の長さは少しだけ正確に測定できて、
$y=(5\pm 0.2)\:\mathrm{cm}$
となったとします。
$(50\pm 0.06)\:\mathrm{cm^2}$ としてよいのでしょうか?
この疑問に答えるのが誤差伝播の公式です。
誤差伝播の公式(誤差伝播の法則)
$z=f(x,y)$ という関係があって、
$x=x_0\pm e_x$
$y=y_0\pm e_y$
なら、
$z=z_0\pm e_z$
となります。ただし、$z_0=f(x_0,y_0)$ で、$z$ の誤差は、
$e_z=\sqrt{\left(\dfrac{\partial f}{\partial x}\right)^2e_x^2+\left(\dfrac{\partial f}{\partial y}\right)^2e_y^2}$
です。
なお、$\dfrac{\partial f}{\partial x}$ は、$f$ を $x$ で偏微分したもの(に $x=x_0,y=y_0$ を代入したもの)です。
例題
横の長さが $x=(10\pm 0.3)\:\mathrm{cm}$ で、
縦の長さが $y=(5\pm 0.2)\:\mathrm{cm}$
であるような長方形の面積はいくらか?誤差も含めて考えよ。
解答
長方形の面積 $z$ は、$(50\pm e_z)\:\mathrm{cm}^2$ です。
ただし、誤差 $e_z$ は誤差伝播の公式を使って以下のように計算します:
$z=xy$、$\dfrac{\partial z}{\partial x}=y$、$\dfrac{\partial z}{\partial y}=x$
なので、
$e_z=\sqrt{\left(\dfrac{\partial z}{\partial x}\right)^2e_x^2+\left(\dfrac{\partial z}{\partial y}\right)^2e_y^2}\\
=\sqrt{5^2\cdot 0.3^2+10^2\cdot 0.2^2}\\
=2.5$
となります。
公式の証明
を証明してみましょう。
$x$ の測定値が $x_0+\Delta x$ で、$y$ の測定値が $y_0+\Delta y$ のとき、$z$ の測定値は、
$f(x_0+\Delta x,y_0+\Delta y)$
です。真の値 $z=f(x_0,y_0)$ との誤差は、テイラー展開できることを仮定すれば、
$\Delta z\fallingdotseq \dfrac{\partial f}{\partial x}\Delta x+\dfrac{\partial f}{\partial y}\Delta y$
となります。ただし、二次以上の項を無視しました。
よって、誤差の二乗の期待値を計算すると、
$e_z^2=E[(\Delta z)^2]\\
\fallingdotseq E\left[\left(\dfrac{\partial f}{\partial x}\Delta x+\dfrac{\partial f}{\partial y}\Delta y\right)^2\right]\\
=E\left[\left(\dfrac{\partial f}{\partial x}\right)^2(\Delta x)^2+\left(\dfrac{\partial f}{\partial y}\right)^2(\Delta y)^2\right]\\
=\left(\dfrac{\partial f}{\partial x}\right)^2e_x^2+\left(\dfrac{\partial f}{\partial y}\right)^2e_y^2$
となります。ただし、途中の式変形で $E[\Delta x\Delta y]=0$ であることを仮定しました。(測定誤差 $\Delta x$ と $\Delta y$ が無相関であれば、この仮定は満たされます。)
次回は いろいろな誤差の意味(RMSE、MAEなど) を解説します。